川上弘美つながりで、筒井康隆。
管理人の捻くれた人格形成に影響を与えた人。
学生時代に愛読書は?と問われたら、筒井康隆と答えたかもしれない。ただ表立って答えると馬鹿にされるので言いませんが(笑)
例えば、フェミニストの上野千鶴子を知ったのも筒井康隆のエッセイからですし、90年代当時の断筆宣言における経緯の変遷も見ていて面白かったです。
現代におけるジェンダー、フェミ問題やLGBT、またTVやネットにおけるヘイトやポリコレ規制などにも当時からの筒井氏の主張はドンピシャ当てはまるわけで、自分においてはこれらの問題定義の先駆者でもあります。(管理人は上野女史については当時の家長制打破や女性のキャリア形成のための問題定義として、無理くり過激な主張を発していたと考えているので否定的ではありません)
と褒め千切っておいてなんですが、年を経るごとに人間的には嫌いになっていき最近ではメディアに出ているのを見るとチャンネル等を変えます。
嫌になった理由は、自己中心性と一貫性のなさ。
というのも筒井康隆はフェミにせよ言論規制にせよ過激ではあるものの反対派としての考え方の筋は通っておりそこには同賛できるのですが、この人の場合それが社会的・文化的毀損に対しての反対ではなく「自分の嫌いなもの」や「自分に楯突くもの」に対する反対というところが見え隠れしているのが分かってきたから。
とはいえ、人物と作品は別であり小説は素晴らしいものが多々あるので作家としては年月が経っても相変わらず好きな一人です。
※追記
絶えず意識していることとして、人物には基本敬称をつけるか、つけない場合はフルネームで記すというのも氏の影響です。
代表作
ジャンルとしては主にSF作家として星新一や小松左京に並ぶ大家とされますが、両氏が純粋にSF中心なのに対して筒井康隆はジャンル横断的かつ実験的な作品が多く、またその本質はブラックユーモアやスラップスティックを用いた社会風刺であってそれを架空世界に当てはめるとSFになった、という感じではないでしょうか。
とにかく作品が多いうえジャンル横断的なので、一般的な代表作と自分の好きな小説を数冊(そのうち追加していきます)
『虚構船団』
発表と同時に毀誉褒貶賛否両論を引き起こした問題作
第一部では擬人化した文房具達が登場するが彼らは全員が気が狂っている。
分度器は自分はロボットだと思い込み、赤鉛筆は全員に嫌われていると考え、消しゴムは自分を天皇だと認識し、墨汁はネクロフィリアである。
その他多数の狂った文房具を無目的の宇宙航海が自閉的に蝕んで行く。
第二部は擬人化したイタチ族の史略小説。
イタチ族の文明の黎明期から崩壊までが描かれている。
第三部は文房具団によるイタチ惑星の侵略と抵抗が群像劇のように描かれる。
最後に文房具とイタチとの混血児の「僕は何もしないよ、僕はこれから夢を見るんだ」で完結する
総評・・・70点、第一部の私小説(しかも気狂い文房具)と第二部の歴史小説を第三部(神話)で混ぜてしまうという発想がすばらしい。
『文学部 唯野教授』
初のベストセラー
各章において、唯野教授の日常や大学教授界のドタバタパートと文学理論の講義が前後で書かれている。
日常の部では教授界において講師と教授の格差や教授に昇格するためのドロドロが、筆者曰く「事実を取材して」描かれており、大学からも抗議が来たとかなんとか。
一方文学理論はこの分野に縁のない自分でも何となく理解できるように書かれており作者の苦労が見て取れるが、これはとある批評家から「SF作家は無知である」と言われたことに対する反証であり、のちに批評家も努力を評価していた(という記憶がある)
総評・・・80点 ドタバタでゲラゲラ読める唯野教授パートと小難しくて読み返さざるを得ない文学理論パートが前後で分散されているので、根気よく読むことができる。
教育界とくに私大の教授会は閉鎖的だとは聞くものの、唯野教授を読んだ際は筒井康隆のことだから大げさなんだろうと思っていのだが、昨今の日大騒動など見ると現実のほうがエゲツナイ。
『家族八景』
テレパス能力を持つ家政婦(女子高生)火田七瀬を主人公とした三部作『七瀬シリーズ』第一作。ただ第二、三作は路線変更でアクションジュブナイル小説と堕してしまった。何故だ。
社会構成上最小単位でありもっとも自己を開放できる家庭という環境に「家政婦」として入り込むことによって、人間の業や醜悪さを端的に見せつけてくれる。
そりゃ美人JKがメイドやってくれれば、男性は狂喜するし女性は嫉妬しますよね。
総評・・・80点 八景とあるように八家族様々な環境だが、極論すると男性は支配欲や名誉欲、女性は怠惰と嫉妬に集約されるので分かりやすい。
これ自分も含め絶対誰かしら当てはまるので、同族嫌悪というかリアリティがあるんだよ。